インクルーシブデザインとは何か? “誰ひとり取り残さない”設計思想

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インクルーシブデザインとは何か? “誰ひとり取り残さない”設計思想

デジタルプロダクトの進化とともに、私たちが向き合うユーザーはますます多様化しています。年齢、言語、身体特性、利用環境など、条件が異なる人々にどう価値を届けるか。その問いに対する重要なアプローチのひとつが「インクルーシブデザイン」です。

本記事では、Googleが提供するオンライン講座、Google UX Design Certificateで自身が学んだ知見をもとに、インクルーシブデザインの基本から、ユニバーサルデザインとの違い、さらにAIと組み合わせた今後の可能性までを整理してご紹介します。

インクルーシブデザインとは

インクルーシブデザインとは、年齢、人種、言語、経済状況、障がいの有無など、多様な背景や特性を持つ人々をデザインプロセスに含めながら、できるだけ多くの人が利用できる体験を設計する考え方です。
従来のプロダクト開発では、いわゆる「平均的なユーザー」が想定されることが多く、結果として一部の人が使いづらい、もしくは利用できない状態が生まれてきました。インクルーシブデザインは、こうした設計から取り残されがちな人々のニーズを起点にすることで、より包括的な体験の実現を目指します。
代表的な例としては、「スクリーンリーダー(VoiceOver)」や、多様な肌の色に対応している「バンドエイド」などが挙げられます。

ユニバーサルデザインとの違い

インクルーシブデザインは、ユニバーサルデザインと混同されることも少なくありません。両者は似ているようで、アプローチに明確な違いがあります。

ユニバーサルデザインは「できるだけ多くの人が同じ方法で使えること」を目指し、標準化された解決策を提供する考え方です。一方、インクルーシブデザインは「除外されがちな人々」に焦点を当て、その人たちの課題から設計を組み立てていきます。

つまり、最初から平均値を狙うのではなく、極端なケースや当事者の声を起点に共創することが、インクルーシブデザインの大きな特徴です。

インクルーシブデザインのさらに先:エクイティフォーカスデザイン

近年、インクルーシブデザインの発展形として注目されているのが「エクイティフォーカスデザイン(Equity-focused Design)」です。

エクイティフォーカスデザインを理解する上で重要になるのが「平等(Equality)」「公平(Equity)」の違いです。

例えば、身長の異なる3人が壁の向こうを見ようとする場合、全員に同じ踏み台を配るのは「平等(Equality)」です。しかし、全員が同じ高さで見られる状態を作るためには、それぞれに必要な数の踏み台を渡す必要があります。これが「公平(Equity)」の考え方です。

エクイティフォーカスデザインは、「同じ体験」を提供するのではなく、「同じ成果」に到達できる状態を設計することを重視します。特に、歴史的・構造的に不利な状況に置かれてきた人々を中心に据える点が特徴です。

例えば行政のオンライン申請システムであれば、単にUIを見やすくするだけでなく、電話申請の併用、多言語対応、音声入力など、ユーザーごとの状況に合わせた複数の選択肢を用意することが、「公平(Equity)」の視点に近づくアプローチとなります。

インクルーシブデザインがもたらす「カーブカット効果」

インクルーシブデザインを学んでいて、特に印象的だった概念がカーブカット効果です。カーブカット(Curb cut)とは、歩道と車道の段差の一部をなめらかにした構造のことです。

もともとは車椅子利用者のために設計されたものでしたが、結果としてベビーカー利用者、台車を押す作業員、スーツケースを持つ旅行者など、多くの人の利便性向上につながりました。
このように、特定の人の課題解決を目的とした設計が、結果的にマジョリティにも価値をもたらす現象をカーブカット効果と呼びます。

カーブカット効果の具体例:タッチスクリーン

カーブカット効果の代表的な事例としてタッチスクリーンが挙げられます。
マルチタッチ技術は、もともと身体的な制約がありキーボード操作が困難な人々のための研究から生まれました。その後、スマートフォンやタブレットに広く採用され、現在では誰もが日常的に使うインターフェースとなっています。
結果として、物理キーボードに依存しない直感的な操作体験が、多くのユーザーにとっての新しい標準となりました。

AI×インクルーシブデザインの可能性

講座内では特に触れられていませんでしたが、インクルーシブデザインはAIの発展によって今後さらに発展していくだろうと私は考えています。理由は大きく2つあります。

多様なユーザー仮説を立てやすくなる

インクルーシブデザインでは、平均的なユーザーではなく、さまざまな状況や制約を持つ人々を想定する必要があります。しかし、この仮説構築には多くのリサーチコストがかかります。
AIは大量の情報をもとにパターンを提示することが得意なので、ユーザーの仮説を広げるためのツールとして非常に有効だと感じています。

パーソナライズされた体験の提供

AIによって、ユーザーごとにUIを動的に変化させることも現実的になってきました。
例えば、集中力に課題を持つユーザー向けに情報量やアニメーション量を調整したり、専門的な説明文を「やさしい言葉」「ストーリー形式」などに切り替えたりすることが可能になります。
こうした柔軟なUI設計は、インクルーシブデザインの実装レベルを一段引き上げる要素になると考えています。

余談:デザイナーはAIとどう付き合うべきか

私自身、実務の中でAIをかなり活用しています。ただ、AIはとても便利な一方で、過信しすぎるのも良くないと感じています。事実、私は思考を広げる場面でAIを活用することが多く、最終的なアウトプットや判断は基本自分自身でおこなっています。
具体的な活用場面として挙げられるのは

・ユーザー仮説のブレスト
・ワイヤーフレームのパターン出し
・UIライティングの整理
・ユーザーフローやユーザージャーニーのパターン出し
・Figmaのコンポーネント/バリアントの命名

などです。
AIエージェントなど新しい技術が登場する中で、AIとデザイナーの役割のバランスを考え続けていかなければならないと思う今日この頃です。

まとめ

インクルーシブデザインは、単なるアクセシビリティ対応ではなく、プロダクトの価値を広げる戦略的な設計思想です。さらにAIの発展によって、より柔軟で個別最適化された体験の実現も現実的になりつつあります。
「誰のためのデザインか」を問い続けることは、結果としてより多くの人に選ばれるプロダクトづくりにつながります。これからのプロダクト開発において、インクルーシブな視点は欠かせない要素になっていくと感じています。

この記事の執筆者

H.M

クリエイティブUX事業部

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