ユーザーファーストを考える
- UI・UX
「○○ファースト」って?
古くは「レディーファースト」に始まり、最近では「アメリカ・ファースト」や「都民ファースト」など、やたらと耳にする「○○ファースト」というフレーズ。「レディ──」の語源を調べてみると、目を疑うようなエピソードも出てきます。また、最近の「アメリカ──」のように、同じ使われ方であってもニュアンスが異なる場合もありますが、「○○ファースト」は「○○第一主義」と訳して概ね間違いないでしょう。
我々の生きているWeb業界においても「クライアントファースト」と「ユーザーファースト」という言葉が存在します。この2つの言葉は、前例に沿って訳すと「顧客第一」「利用者第一」と言い換えることができます。さらにブレイクダウンすると、顧客第一……クライアントの利益(ベネフィット)を最優先事項と考えることであると言えます。そして当然のことですが、それは顧客の言うことを何でも聞く(実現する)わけではないということ。一見すると、クライアントの要望に反しているようであっても、最終的に、クライアントに最大限の利益を提供できるよう、明確な戦略と意志をもって誠心誠意対応することこそが、真の顧客第一と言えると思います。
また、「利用者第一」も同様です。利用者の望むものをそのまま形にし、提供することは、確かに正しい事のように感じます。顧客の希望だけを実現することに比べると、より深く事象を分析・調査しているように見えますし、一面では正しいことだと言えますが、角度を変えて考えると、それだけがすべてではないことが見えてきます。
本稿では4大メディアや先駆者たちの言葉から、本当の意味での「クライアントファースト」と「ユーザーファースト」とは何かを考えてみたいと思います。
インターネットの成長と「メディアファースト」
2,000年以前、企業と消費者の接点は4大メディア(4マス)が中心でした。モノを売るためにはCMや広告への出稿こそが唯一の手段であり、CMや広告の効果は売上から想像するしかありませんでした。当然、「視聴率」「聴取率」「販売部数」が重要な指標となり、これらの数字が大きい媒体への出稿こそが、売上や知名度の向上に直結すると思われていたのです。もちろん、4マスの広告効果によって、世の中に広く知れ渡ったものも多く、その経済効果も果たした役割も非常に大きなものであったと言えます。売るためのイメージ戦略、そして「視聴率」の高い番組枠に大量投下されるCMや記事広告など、「販売戦略、仕掛けや工夫」によるユーザーコントロールがなされたこの当時は「メディアファースト」の時代だったと言えるかもしれません。また、CM制作・CM枠を購入してくれるクライアントの意向を忖度する、間違ったクライアントファーストが生まれたのもこの時代だったかもしれません。
この時代は、利用者=エンドユーザーのニーズや反応は、アンケートなどのユーザー調査のほかには調べる方法が無く、ある意味で4マスおよび広告代理店の思うがまま流行を作ることができましたが、インターネットの普及により、この構図に大きな変化が訪れます。「視聴率」「聴取率」「販売部数」といったあやふやな数字ではなく、「訪問者数」「滞在時間」「PV・CV」など、ユーザーの動向、直接的・間接的なニーズが明確な数字となって表れるようになりました。また、掲示板での書き込みやSNSでのシェアによる拡散・共有などによって、企業が直接的にエンドユーザーの意見を受け取ることも可能となりました。また、オウンドメディアの活用により、CMや代理店に頼らない広告や、販売戦略、ユーザーサポートが機能し始めたのです。企業がユーザーと直接つながることが可能になり、これまで以上にユーザーを意識したサービス提供・開発されるようになり、ユーザーも、インターネットで「調べる」「比較する」という選択肢を持つようになりました。インターネットの普及は、企業とユーザーにお互いの存在を再認識させ、対等の関係に近づけたのかもしれません。
ただその反面、「クレーマー」という人種が生まれ、必要以上に権利を主張したり、間違った正義を振りかざしたり、そのクレームによる炎上を恐れて、ユーザーの顔色を窺うなど、阿る企業・担当者がいることも事実ですが、概ね企業と利用者の関係性は良い方向に向かいつつあるのではないかと思います。
ユーザーファーストの考え方
「顧客が望むものを提供しろ」という人もいる。僕の考え方は違う。顧客が今後、なにを望むようになるのか、それを顧客本人よりも早くつかむのが僕らの仕事なんだ。ヘンリー・フォードも似たようなことを言ったらしい。「なにが欲しいかと顧客にたずねていたら、『足が速い馬』と言われたはずだ」って。
引用元:ウォルター・アイザックソン『スティーブ・ジョブズ II』(講談社、2011年)
これは、あのスティーブ・ジョブズの言葉ですが、これこそが究極の「ユーザーファースト」だと思います。iPhoneはまさにその代表例でしょう。iMacやiPodなどは、主にデザイン面での革新を感じましたが、iPhoneの場合は違います。携帯電話は「外出先でも電話を受けたい」「もっと小さな携帯電話が欲しい」というニーズに応じて「進化」したツールですが、iPhoneには携帯電話という概念そのものを壊されてしまった、まさに望むどころか想像すらしていなかったというしかありません。そして、その後のスマートフォンやタッチデバイスの普及がこのことを証明しているといえるでしょう。
デザイン面・機能面で革新的なWebサイトや技術は日々生み出されていますが、まだ、Webサイトにおける「iPhone」は生まれていません。我々は「ユーザーが使いやすく、必要な情報に最短でたどり着くことができるサイトを構築する」という、ある意味当たり前のことを目指しています。だからこそ、クライアントのヒアリングではなく、その先にいるターゲット・ユーザーが、何をクライアントに期待しているのか、何を必要としているのかを仮説検証して戦略を考えています。ただ、本当のユーザーファーストを意識して、いつかWebサイトにおける「iPhone」を作り出したいと思っています。たぶん。
蛇足ですが……「お客様は神様です」の真意
今回、本稿を書くにあたって、真っ先に調べたのがこの言葉でした。昨今、飲食店・コンビニなどのトラブルでよく聞くフレーズですが、どうも釈然としなかったのです。これは、故三波春夫氏も気にかけておられたようで、しっかりとオフィシャルサイトに記載してありました。詳しくはリンク先で読んでいただきたいのですが、「舞台に立つときは、神様の前で芸をするかのごとく、一つのことに精神を集中して励まないと本当の芸はできない」というような意味のようです。我々が仕事をする際にも、このような真剣な心持で臨みたいと思います。
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